■桐野夏生/『アンボス・ムンドス』 |
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2008-11-24 Mon 12:18
桐野女史の短篇集『アンボス・ムンドス』,待望の文庫化。なんとも刺激的な7篇によって構成された,読みごたえたっぷりの一冊である。
![]() 不倫相手と夏休み,キューバに旅立った女性教師を待ち受けていたのは非難の嵐だった。表題作の他,女同士の旅で始まった生々しい性体験告白大会,若い女の登場に翻弄されるホームレスの男達,など七つの短篇を収録。女性の奥底に潜む毒を描き,直木賞受賞以降の刺激的かつ挑戦的な桐野文学の方向性を示す。【文庫カバーより】 ああ,たまらんですわ,桐野女史。彼女のお書きになる作品は,どうしてこうもゾクゾクさせてくれるのでしょう。 桐野女史の作品を読む際,常に頭に浮かぶキーワードが3つある。まずは,上掲のカバーにもある【毒】,続いて長編『グロテスク』で何度も何度も繰り返し登場する【悪意】,そして最後に【容赦のなさ】である。中でも,最後に挙げた「容赦のなさ」こそが,個人的に桐野文学最大のツボ。読みながら思わず,「あー,そこそこ! もっと!もっと強く!!」と,ハアハア息を荒げてしまうのよねん。 今回の短篇集では,早くもオープニングから容赦のなさは全開である。 『植林』。 主人公の宮本真希,24歳,フリーター。両親,兄夫婦と同居する真希は「何を着ても似合わないずんぐりしたスタイル」で,「細い目はいくら化粧しても大きくなってくれず,意地悪そうに底光り」しており,家庭でもバイト先でも居場所を侵食され,絶えず隅に追いやられている。美貌もなければ,なんら特殊な能力もない。そんな真希を描写する桐野女史の筆ときたら,解説で杉本章子センセイも指摘しておられるように,「実に容赦がない」。容赦なさすぎで,もうシビレまくりだわさ。しかし,真希は,「1984年グリコ・森永事件」を特集したテレビのワイドショーから,事件当時の音声が流れてくるのを耳にした瞬間,突然,幼年時代のある記憶を蘇らせるのであった。こんなにも爪弾きにされたつまらない女が,あの有名な事件とどう繋がっていくのか。それだけでも読者の興味は激しくかきたてられるが,それ以上に面白いのは,幼い頃の記憶を蘇らせたことで,この冴えない真希が,突如として世界の「中心人物」にでもなったかのように変貌を遂げるくだりである。その変わりようは,周囲の人間を唖然とさせるが,桐野女史がこのまま真希を有頂天にさせておくわけがない。真希は,「生まれて初めて『自分を考える』という作業」を行うことで,真実へと行き着き,絶望するのだ。まさに残酷なほどの振幅の大きさである。嗚呼,全く以って容赦ない。しかし,ここで終わらないのが桐野女史の凄いところである。この後,真希は,近所のコンビニで四歳のクソガキに対し,こっそりとある悪意を植えつけ(『植林』),去っていくのだ。並の作家なら,せいぜい真希の絶望とともに静かに終わらせていたであろうこの物語を,こうも毒々しく最後の最後まで盛り上げてくれようとはっ。いやいや,おそれいりました。50ページに満たない分量であるというのに,これだけで通常の単行本一冊以上の楽しみを味わったかのよう。 さて,これ以外の6篇もそれぞれに読みごたえがあり,一つ一つ紹介していきたいところではあるけれども,僕がここであれやこれやと駄文を連ねて紙幅を費やすよりも,やはり実際に手に取ってお読みいただくのが一番であろう。どれも面白いけれども,やはりトリを飾る表題作は格別だ。教頭と不倫関係にある若い小学校教師が,示し合わせて夏休みにキューバを旅行するものの,二人が旅行する間に教え子の女生徒が死亡するという事故が発生。二人に連絡が取れなかったことから,秘密の関係がバレてしまい,二人は保護者やマスコミから袋叩きにあう。おほほ,これだけでゾクゾクしちゃいますでしょ。 そして,この文庫版を手に取られた際には,ぜひとも杉本章子センセイの解説もお読みいただきたい。この中で杉本女史は,本書を「桐野さんの新旧二つの作品世界に架けられた吊り橋のようなもの」と位置づけた上で,実にわかりやすく桐野文学の地図を描いてみせる。ここに収録された短篇が,『メタボラ』,『東京島』,『残虐記』などの長編小説とどのように繋がっているのかが明瞭に示されることで,桐野ワールド初心者の方々には絶好の道案内となってくれる筈だ。文庫本解説はかくあるべし,というお手本のような名解説である。 |
この記事のコメント |
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こんばんは。
これ面白いですよねぇ。 Jeanさんの言うとおり、とにかく女性に対する描写の容赦のなさったら…。 あまりに容赦なさすぎて爽快に感じられるほどです(笑)。 僕も表題作が一番好きですけど、『愛ランド』の開放的で淫靡な雰囲気もよかったですね。 どの短編もホント濃いです。 こんばんは。
はるとさんも読んでおられたのですね,これ。 おっしゃる通り,どれもこれもホント濃いです。そして容赦のなさときたら,クセになりそうなほどの爽快感ですよね。 桐野女史といえば,今月末に新刊『女神記』が発売になりますね。都内ではサイン会も行われるそうです。また行ってみようかな。 |
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